死はなんの前触れもなく突然やってくる。モモは最愛で唯一の家族だった兄トムを失い悲嘆に暮れていた。
時折兄の声が聞こえるようになって、モモはその声を聞くたびに胸が苦しくなった。
「こんな世界、生きてたって…」
モモは毎夜、窓際で膝を抱えた。
ある日モモは三日月頭の奇妙な生き物に出会った。ケダモノと呼ばれる生き物で、それは自分のことをノーブルと名乗った。どこか生意気で身勝手な振る舞いのノーブルだったが、モモはなんだか懐かしく思えた。
ノーブルはどこかトムに似ていた。トムはもっと優しかったし、こんなに口も悪くなかった。でも、どういうわけか懐かしく思えたのだ。
モモにずっと語りかけていたのはこのおれだとノーブルは言った。モモは声の主がトムではなかったのだと知ると、少し複雑な気持ちになった。
ノーブルはとある理由でモモを探していた。
「話は後だ。ついてこい」
ノーブルはただそう言ってモモをケダモノの世界へ案内した。まるででたらめで奇妙な世界だったが、ケダモノたちは人間と同じように暮らしていた。
ノーブルは“よろず屋ノーブルクラフト”を経営し、妹を探すためにケダモノたちから情報を集めていた。
モモはどうして自分を探していたのかを聞いた。
「おれの妹を探してほしい」
ノーブルはもともとケダモノの世界の王子で、悪い女王に王女である妹とともに追放されてしまった。それで妹とは離れ離れになってしまったと言った。
ノーブルは言った。ケダモノは人の数だけ存在していて、人とケダモノはそれぞれ繋がっている。人間が生きている限りケダモノも生きていると。おれの妹はお前と繋がってるケダモノだと。
「お前が生きているということは妹も生きてる。お前は妹を見つけるための唯一の手がかりだ」
モモは少し考えてから、彼を助けてあげることにした。でもひっかかることがあった。
「ケダモノの家族と人間の家族は繋がってるの?」
「そりゃあ、そうなるな」
モモは聞き返した。
「じゃああなたはわたしの兄のケダモノってこと?」
ノーブルは当然のようにうなずいた。「まぁそうなるな」
モモは耳を疑った。
「トムは死んだのよ。たしかに兄を見送ったもの。ありえない。あなたが生きているのはどうして?」
ノーブルは顔をしかめた。
「おれが知るかよ。でも、なにか理由があるのかもしれないな」
モモは“よろず屋ノーブルクラフト”でアルバイトとして働くことになり、ノーブルの妹の手がかりを探す手伝いをした。
そしてモモはノーブルが生きている理由を探す必要があった。
そうしてノーブルとモモの“よろず屋ノーブルクラフト”ははじまった。だが身勝手で傲慢なノーブルとの生活は、モモにとってはそれは大変な日々のはじまりでもあった。
その様子を影で見つめるケダモノがいた。
それはノーブルと同じ三日月頭だがもっと人相が悪く、二人を見て不気味にニヤリと笑った。
「女王さま。かの人間の少女を見つけました。はい、おおせのままに」